[大川周明ネット - 先生の人となり]

百科事典の中の先生

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 「一言で紹介すると」で書いたように、先生のことを一言で紹介するのはとても困難です。それは真理子の手に余るだけでなく諸先生も困っているようです。単行本を一冊書くとか、論文を一編書けば、意を尽くした紹介ができるのでしょうが、百科事典や人名事典のような、字数の限られた場で紹介するのは大変です。浅薄な理解でやった紹介はすぐにボロが出てしまいます。先生のことを知れば知るほどその難しさにおそれおののくところです。
 ですからこれらの事典でどう紹介されているかを較べて見るのは、諸先生の苦闘あるいは無理解の度合いを知るうえでとても興味深いところです。
 ここに全部紹介すると大変ですので、原文は
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で見ていただくとして、ここでは簡単に批評してみましょう。


●万有百科大事典
 いきなり「五・一五事件の首脳者のひとり」と出てくるのでのけぞってしまいます。「首謀者」と書かれなかっただけまだよかったのでしょうか。「派手な出発は群小右翼団体を驚かした」なんていうと、ウルトラ右翼って感じですよね。
 「昭和の大塩平八郎」――このコピーはすばらしいわ。どっかで使っちゃおうかしら。
 「発狂については諸説あり、右翼陣営の多くは、この点で大川を非難した」。この短い字数内でこういう論評を載せるっていうのは、先生を意気地なしと評しているみたいね。
 
●日本大百科全書
 これも出だしの「日本ファシズム運動の理論的指導者」にのけぞっちゃいますが、それを除けば、インド哲学の専攻→インドの現状→植民政策と、先生の関心のよってきたるところをスマートに紹介してますね。
 
●世界大百科事典
 これも出だしが「ファシズム運動家,思想家」。思想よりさきに運動が、しかもファシズムと来るのにのけぞっちゃいますね。
 最後の「病棟で《コーラン》の翻訳に没頭する」――没頭しただけじゃなくちゃんと出版したんだから、この書き方だとわからないわ。
 
●コンサイス日本人名事典
 限られたスペースの中で《松村介石主筆「道」の編集》という仕事を紹介しているのはこの事典だけみたいね。これはポイント高いです。でも最後の「大川周明全集」全5巻,1961~63っていうの、まだ5巻しか出てなかったころに書かれた原稿(無署名)をそのまま使いまわしているのがわかって大減点。
 
●平凡社 新イスラム事典
 「平凡社 新イスラム事典」なんて上のリンクのデータに出て来ないじゃないかって? そう、なんとこのイスラム事典には、『回教概論』を書きクルアーンを飜訳出版した大川先生を載せていないのです。項目として載ってないだけでなく索引にも出て来ません。つまり日本におけるクルアーン翻訳史みたいなことは、この事典では調べられないわけです。困った事典ね。
 
●岩波イスラーム辞典
 こちらはちゃんと項目がありますし、『回教概論』も『古蘭』も当然あり。他と違って、アジアの思想家や革命家とのつながりを書いている点は、さすがイスラム専門辞典です。
 しかし、イスラムに関心を示したきっかけを「ウパニシャッド哲学との関連でイスラームにも関心を及ぼし」としているのはいかがなものでしょうか。ウパニシャッド哲学のどこがイスラムと関係するのでしょう? それだったらむしろ、キリスト教を出発点にしながらイエスの神性を否定するに至った道会の思想のほうがはるかにイスラム教に近いですし、欧米に対抗するためのアジアの力としてイスラムに関心を寄せたというほうがはるかに実情に近いと思います。